左右分割でJIS配列な自作キーボード、Pistachioを設計した話
Boothにて販売している自作キーボード、Pistachioの設計談を書いていこうと思います。
Pistachioの概要などは下記のBoothページでご確認ください。
Pistachioの特徴
Pistachioの特筆すべき特徴としては次のようなものがあります。
・自作キーボードキットとしては珍しいJIS配列であること。
・左右分離型であること。
・ステンレスプレート採用のため、重く、高級感があること。
これらの特徴から、次のような人をターゲットとしています。
・US配列に取っつきにくい人(JIS配列じゃないとダメな人)
・左右分離型を体験してみたい人
・高級感のあるキーボードが欲しい人
また、キー数の多さ、はんだ付けが必要な部品にチップ部品を含むことから、初心者向けな設計とはしていません。
Pistachioが出来るまで
Pistachioの設計をするにあたって、今回は下記の順で検討を進めていきました。
コンセプトの検討
まずは基本設計として、どのような機能を持たせるかを考えていきます。
キー配列や分割型かどうか、他キーボードとの差別化や、自分が欲しいと思った機能を検討します。
Pistachioでは左右分割型+予備キーの80%JISキーボードとし、ステンレスのカッコいい見た目にすることとしました。
また、キーキャップはFICO-Majestouchの日本語キーキャップセットがそのまま使える設計としています。
左右分割型で懸念していた点として、YキーとBキーをどちら側に置くかということです。
私はBキーを右手で押していましたが、すぐに慣れるだろうということで左側に配置しました。(実際すぐに慣れた)
機能設計
コンセプトを各機能に分けて考え、大まかな設計を行います。
キー数に対して使用するマイコンボード(今回はProMicro)のピン数が足りているか、おおよそのピンアサインを考えておきます。
左右分割型のため左右間の通信が実現可能かどうかのリサーチや、ステンレス筐体が現実的な価格で作れるかどうかのリサーチなど。
コンセプトに対し、それが実現可能かといった観点で手段を確定させていきます。
ハード設計(筐体)
キーボードの筐体を設計します。
必ず試作をして無理な設計が無いか、コストダウン出来ないかを調整します。
また、必要な部品の洗い出しを行い、入手性、加工性、コストの面で確認を行います。
筐体の加工方法として比較的低価格なレーザーカット、高価なCNC加工など色々あるため、お財布と相談して妥協点を見つける必要があります。
Pistachioでは加工コストを下げつつ高級感を出すために”素材は高級、加工費は比較的安価なレーザーカット”という思想で設計しています。
筐体は数社に素材を変えつつ見積もり/試作をしてもらい、決定しました。
ハード設計(基板)
基板の設計を行います。
無限の可能性などの手はんだを前提としたキーボードもありますが、販売や頒布を考えると基板を作成する必要性が出てきます。
何か特別なハード構成(ポインティングデバイスをつけるとか、LED制御するとか)があれば、先にマイコン、ソフトとして実現可能かも確認します。
Pistachioは左右分離型のためTRRSケーブルによる通信が必要となりますので、ソフトで実現可能であることを確認しました。
基板も筐体同様、試作を行って詳細を詰めていきます。
どちらとも一発で量産品を作ろうとすると痛い目見ますよ!(戒め)
ソフト設計
今回は自作キーボード界隈ではポピュラーなProMicroを使う為、必然的にqmk_firmwareベースとなります。
qmkのドキュメントをあさったり、実際にブレッドボード上で動かしたりしながら学習したのちにPistachio用のソフトを完成させました。
本業で組み込みを行っていることもあり、さほど苦労はありませんでした。
ハード部品発注
基板(PCB)、筐体パーツ(プレート/ねじなど)、電子部品を発注します。
基板やプレートはオーダーメイドになるため、手元に届くまで若干時間があります。
また、各種部品を海外から取り寄せる場合も同様です。
何かのイベントに間に合わせたりする必要があるのであれば、考慮しましょう。
初めて自作キーボードを作るときの参考情報
自作キーボードを設計しよう!
そう思ったものの、右も左も分からない私は下記の書籍を購入しました。
こちらは@foostan氏が販売している自作キーボード設計者向けの入門書になります。
キースイッチやLED、スピーカーなどの周辺機器の説明から、基板作成、発注、ファームの作成まで記されていました。
入門書としてかなり網羅されており、助かりました。
初めて自作キーボードの設計をしてみたい人には非常にお勧めです。
検討したが、妥協したもの
設計の際に検討したが、色々あって妥協したものの代表的なものをいくつか紹介します。
側面むき出し構造
Pistachioでは下記画像のようにプレートとPCBをサンドイッチした形状になっています。
その影響で側面は基板が丸見えになっており、自作感が溢れてしまいます。
個人的にはメーカー製品のように基板は隠したかったのですが、コストの面から納得のいく構造を作ることができませんでした。
ただし、個人使用としては画像のように側面にアルミテープを貼るカスタマイズを施すことで改善しています。
また、良い副作用として打鍵音が良くなりました。Pistachioを所持している人はおすすめのカスタマイズです。
PCBA
基板製作会社が基板作成の際に部品実装まで行ってくれるのがPCBA(Assembly)です。
こちらは初めての自作キーボードということで、どれだけ売れるか分からないというのもあり、コストの面で却下しました。
Pistachioは92キーもあるため、はんだが苦手な方にはかなり苦行なのではないかと思っています。
代わりと言っては何ですが、私のほうではんだ付けを代行するオプションを用意し、はんだ付けが苦手な方でも完成できるような販売体制を執っています。
市販キーボードのようなチルトスタンド構造
キーボードを打ちやすくするために、市販のキーボードではチルトスタンドがついている構造が一般的です。
Pistachioにも同じ構造を搭載したかったのですが、こちらもコストの面から却下せざるを得ませんでした。
個人的にはチルトしていることは必須であり、頭を絞ったのですが無理でした。
こちらの妥協点としては、下記ツイートのようにD型ゴムのクッションをつけるカスタマイズで改善しています。
#PistachioKeyboard の傾斜つける時、Dゴムクッションつけると滑り止めにもなっていい感じ。
打鍵感も若干のクッションになってステンレスと相性いいぁも pic.twitter.com/jwtH2njozH— ⌨️らて (@7_rate) February 7, 2021
おわりに
本記事が自作キーボード設計者の一助となれば幸いです。
不明点や聞きたいことがありましたら、私のTwitterまでご連絡をお願いします。
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